The 塩

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よく飲み歩いていた頃の話である。しこたま飲んだ後、塩ラーメンを無性に食べたくなって、自宅近くのラーメン屋によって、塩ラーメンを注文した。客は、僕一人だけだった。明らかに繁盛していない店だと分かっていた。

僕の経験からいうと、繁盛している店より、繁盛していない店のが美味しいと思っていた。裏町にひっそりとたたずんでいる店に立ち寄って、ビールを頼み肴は適当に頼んで、ほとんど失敗したことがなかった。

その条件にぴったりと当てはまっていたので、さぞかし美味しい塩ラーメンを食べられると考えていた。ところが、何かしら嫌な予感が僕を襲った。まず、店主が調理をするのだけれども、どうも手つきが怪しい。

その時点で、特別、美味しいラーメンが出てくるとは期待していなかった。それなりの味を期待していたのだが、それが、ことごとく裏切られた。運ばれてきた塩ラーメンのスープを飲むと、これは、THE塩という感じで、ダシの味がしなかった。

思わず、僕はにたりと笑ってしまった。これくらい、まずい塩ラーメンを食べたのは初めてだったからである。昔、中島らもも、不味いものを食べるとにたりと笑うというくだりがエッセイに書かれていたのであった。

これだけ不味い塩ラーメンに出会えるのは、滅多にないことである。思わず、笑えるくらい塩の味しかしない塩ラーメンだった。確かに、塩だけでも塩ラーメンと呼ぼうと思えばありだろう。ただ、ダシの味がまったくしないのは、ある意味、高度なテクニックと言えよう。

美味しいラーメン屋は、どこかしこにあるけれど、これほど、不味い塩ラーメンを食するのは初めてであった。グルメ気取りではないけれど、それにしても不味かった。これで、お金を取るのかというくらいのものであった。

それからというもの、不味いラーメン屋を探すのが、僕たち仲間内の中で流行った。どこそこのラーメンは不味いと言った具合に情報を交換していた。ただ、悲しいことに、そういった不味い料理を出す店は、ことごとくつぶれていくので、滅多に食べられることはなかった。

これが、良いのか悪いのかは別として、ミシュランの三ツ星とは正反対の、不味い店のミシュランをつけてもらいたいものだ。僕なら嬉々としてその店に行き、不味さを堪能するであろう。食べた瞬間に、思わずニタッと笑ってしまうほどの不味い料理ほど、面白いものはない。これからも、そういう店を探して食べてみたいものである。

The 塩 | Ecency