アメリカへ来て半年くらい経った頃の事です。ダウンタウンの日系マーケットに食材を調達しに行った時に、早く着きすぎてしまい、オープンするまで休憩場所のようなところで、座って待っていたら、ホームレスのような身なりのおじさんに話しかけられました。
同じ日本人だからといっても見た目がだいぶ怪しいので、警戒しながら話していましたが、おじさんはそこの寿司屋で働いていて、私が仕事を探しているといったら、じゃ紹介してやるよと言って、そのまますぐに店まで話をつけにいってくれました。とても優しい感じの年配の女性(60歳くらいでしょうか)がマネージャーの役割で働いているからといって、その方とお話しさせて頂いて「英語があまり自信ないんですけど、接客大丈夫でしょうか?」と聞くと「英語はね、私もわかんないけど大丈夫よ。」とにっこり言われ、その場ですぐに雇って頂けました。
そこは、オーナー曰く『ロサンゼルスで一番古い回転寿司屋』でした。言われるとおり、店の外装も内装も古く、働いている方も平均年齢50歳くらい、回転寿司のマシーンがガチャンガチャン音をたてながら回っていました。この店ほんとに大丈夫かなぁ~潰れそうに見えるんだけど。外見でまずドン引きしていたのですが、寿司は日本人のベテランのしっかりした方が握っておられ、味は店の見た目とは違ってちゃんとしたものでした。近くに沢山の競合店があり、その店の評価は他の店と比べるとかなり低かったのですが、観光客でいつも賑わう抜群の立地条件でしたので、経営はなんとかやっていける店でした。
そしてなんといっても驚いたのは81歳のオーナーさんです。ヨタヨタ杖を突きながら旦那さんと店に登場され(旦那さんは2歳くらい年下だったと思います)、「あれがオーナーよ。みんなミセスって呼んでいるの。」(ちなみに旦那さんがミスター)とマネージャーさんにそっと言われた時、なぜかぞっとする思いで身の毛がぶるっとしたのを今でも覚えています。なぜまだ働いてるの?
ミセスはまっすぐ歩く事もできなくて、ブルブル震えながら、お茶もいっぱいこぼしながら、お客さんのところまで運んだり接客もしてて、立派にチップまで取っていました。オーナーはチップに手を出してはいけないはずなんですが、ミセス曰く「オーナーでもサーバーとして働けば、チップを取っていいという法律があるのよ」という事でした。もうとにかくお金に悪賢い知恵を使って、本来従業員に支払われるべきところを支払わず、ボケた振りなどしてしらばっくれているような人でした。
実際従業員の中国人のシェフから給料や労働条件等で、既に訴えられていました。訴えながらも働いているって逆にすごいな日本人にはとてもできる事じゃないなとも思いますが、ミセスはミセスで「あの人は寿司を作るのが早いし、沢山お客さんがついてる」って訴えられてるにも関わらず、すごく気にいってるようでした。彼のお客さんはメキシコの方が多く、彼はいつもスペイン語の禁句のような言葉を発して笑いをとっており、他の従業員からは怪訝されていました。ミセスと中国人シェフはグルで一緒になって実は店の金を横領してるという噂もありました。
私はミセスにもミスターにも色々と腹立たしい思いを抱えながらも、一応食べていけるだけのお金も稼げてはいるし、他の従業員の方々は、とっても私に良くしてくださり、英語もまともに話せないのに雇ってもらえる店はなかなかないと思い、まぁ、なんだかなぁと思いながらも働いていました。実際、仕事もすごく簡単で回転寿司なので、最初にドリンクだけ聞いて、あとはお客さんが勝手に回っている寿司を取るか、寿司シェフにオーダーするので、食事がおわったらお皿を数えてお会計するだけ。とっても楽チンでした。
ミセスの金への執着心は凄まじく、その勢いは日に日に増していき、本来はウェイトレス40%、寿司シェフ60%でチップをもらえるはずのところのチップを寿司シェフには一切払わず、60%を全部横取りした上に、まともにサーバーもしていないのに、「あたしも今日、お茶運んだりお会計手伝ったから。」と言って、ウェイトレスからのチップもかなりの割合で取っていくようになりました。
アメリカではチップの習慣があり、レストランで働く人々には重要な収入になります。みんなミセスに腹を立てて、腕のよい寿司シェフや、サーバーもどんどん辞めていってしまいました。中国人のシェフまで中国に帰ってしまいました。そして日本で料理の経験のある私に声がかかりました。寿司を覚えてみないかと。。