お菓子を作るのは割と好きである。
お菓子とは言っても作るのはだいたいシフォンケーキかスポンジケーキの2種類で、好きとはいっても毎日毎週とかでもなく「よっしゃ久々にあれやるか!」と、定年退職したおっさんが鉢巻きしだして昔取った杵柄で目を爛々とさせ太鼓を叩く、といった感じである。たまに叩く太鼓、それが私のお菓子作りだ。
そんな訳でお菓子作りが趣味、という程でもないので身近にお菓子作り仲間もいないのでよくわからないのだが
私のお菓子作りは間を開けすぎるとびっくりする程手際が悪くなる。
「あれっ?あれっ?」と戸惑うまま作業し、おっさんが「俺の太鼓こんな下手くそだったっけ…」としょんぼりする姿を現したかのようなスポンジが焼きあがったりする。
なので「あれっしばらく作ってないな…」と気がついたら作るようにしている。
先日は子供の日だった。
愛する甥の為に私、おばさんは立ち上がった。
「私は兜のケーキを作る!」
おばさんは久々のケーキ作りである事、甥の喜ぶ顔が見れるはずという期待で興奮していた。
しかもいつものオーソドックスなホールケーキではなく、兜の形に挑もうというのだ。
気合い入りまくりだった。
おっさんの、久々に鉢を握る手に力が入り、熱くなった身体からケンシロウのように蒸気が立ち上る様だった(ケンシロウのあれはオーラかもしれない)
でも、なんども書くように久々だった。
終始「あれっ?」が起こる。
それでも何とか焼きあがった。
お菓子作りは結構、料理もだけど時間との戦いというか「この工程はもう始めたら止められないからな!」とか「〜になったらすぐ!こうするんだかんな!」「さもなくばグルテンがこうなって膨らまないんだからな!」とかモタモタしてはいけない工程がある。
焼きあがった生地は焼き縮みを防ぐために、生地を乗せた鉄板ごと地面に「バーン!」と落とす必要がある。
バーン!しないと濡れたポメラニアンのようにボリュームダウンするのだ。
オーブンから出したら間髪いれずバーン!である。
やった、無事バーン!を済ませホッとした。
あれっ?あれっ?の連続、慌て動揺しながらもたどり着いたゴール。
心底ホッとして気が緩んだ、緊張と緩和。
終わった…。
しゃがんで生地を見て焼き色を見て、よし、と立ち上がった。
そしたら頭に何かぶつかって落ちた。
びっくりして前のめりになり、見ると生地まみれのあの、生地をかき混ぜるシャカシャカ棒が転がっていた。
自然発生した訳ではなく、妖精の仕業でもなく、他の誰でもない私がカウンターに置いたのだった。カウンターからはみ出して置いたのだった。
そしてカウンター横で私は生地バーン!してしゃがんでいたのだった。
「あーそうだったそうだったははは」
生地まみれの棒は同じく私の頭も生地まみれにしていたのだがそうわかるのは後の話で、その時私は足に異変を感じた。
足裏の感触が。
うちのフローリングではない。お前は誰だ、誰なんだーー!
生地ー!!!!!
久々だったから。
おばさん、ケーキ作り久々だったから。
おっさんで言うと、太鼓を叩き終わったらふんどしがハラリと落ちたといった感じだろうか。たぶん違う。
ーロサンゼルスにあるよねこういうの…ハリウッドスターがさ、地面にこういう、手型足型残してさ…あるよね…これはスポンジだし私ハリウッドスターじゃないけど…あるよねー
などと呆然とどうでもいい事を思いながら。燃え尽きたジョーのようになりもしたが、懸命に甥の笑顔を思い浮かべ気を取り直して生地を焼きなおし、完成させた。
断面綺麗にできませんでした…
甥はたいそう喜び、おばさんも生地をつけた頭で幸せそうに笑ったとさ。
今回のように失敗もあるがお菓子作りは、楽しい。
どうであれ、不出来でもすぐに形になり、わかりやすく結果が出る。
これが私にとっては気持ちがいいらしい。
私は創作、絵や文や漫画を描いているが、特に漫画の完成までの長さ、その形になるまでの時間を比べると雲泥の差だ。
太鼓を叩けば音が聞こえる。叩いてから3日後に音が聞こえたりしない。いっこく堂ではない。
お菓子作りは太鼓叩きで、私にとって早く形になる創作だ。
すぐ形になり、すぐわかりやすい、手に取るような結果が、実感がやってくる、お菓子作りという創作で得られる快感。
料理やお菓子作りは、行動→結果→対策・学習→行動→結果
このサイクルが早く気持ちがいいと思う。
しかも上手くいけば、すぐに食べてもらえて、美味しいと喜んで、笑ってもらえるのでやめられない。
これからもあまり間を開けずにケーキを焼いていこうと思う。
カウンターにシャカシャカ棒を置くときはカウンターからはみ出さないように置こうと思う。
次に作ってみたいのは、何やら最近よく耳にしてチーズケーキとなにが違うのかよくわからないがヌトヌトして美味しそうなチーズテリーヌと、ただチョコレートが好きで食べたいのでガトーショコラです。
おしまい。