おかしな話ですが、私は私を探しているのです。眉間に小さなホクロがあります。美人ではありませんが、愛嬌のある顔です。あ~、あのころは良かった。友達がたくさんいて、飲みに行っては上司の悪口を言っていた。私はいったいどこにいるのでしょう。
ある朝、目が覚めると私がいなくなっていたのです。鏡の中の私は別人になっていました。西洋人のようなパッチリした目。透き通るような白い肌。整った鼻。眉間のホクロは無くなっていました。
すぐに妹を起こして私の顔を見てもらったのです。慌てている私を見て妹は「お姉ちゃん、どうしたの? 早くしないと遅刻しちゃうよ」と平然と言いました。父も母も私を見て、なんのリアクションもなかったんです。
会社に行っても、私を見て誰も驚く人はいません。誰もが普通に「山田さんおはよう」と挨拶をしてきました。変化といえば、驚くほどテキパキと仕事がはかどり、「できる人」になっていたんです。しかし、いつも仲良くしていた洋子がやけに私に冷たくなっていました。洋子だけじゃありません。全体的に今まで仲良くしていた仲間と疎遠になった感じ。
私は非常に美人になった顔が気に入って、化粧をするのが楽しくなりました。大嫌いだった課長から好かれるようになり、ブランドのバッグを買ってくれたり、職場でも非常に贔屓にしてもらっていいます。しかし、周囲の女性職員からの風当たりはひどくなるばかり。元の私に戻りたい。
ある夜のこと、鏡を見ていると、洋服の肩のあたりに白い糸がついているのを発見。引っ張ると、ドンドン出てきました。そのうちに痒みが出てきて、服を脱いでみると、どうやら糸は私の肩そのものから出ているようでした。引っ張るうちに糸はロープになり大きな塊になりました。塊を強く引っ張ると、ドンという音と共に、私の体から出てきたものが一人の女性になったのです。
なんと、彼女は以前の私でした。やっと見つけた。「私の顔を返して!」私は大声で叫びました。彼女、いや、元の私は言いました。「私だってあなたのところに戻りたい。でも、その仮面が戻らせてくれないのよ。その美しい仮面がね。」
彼女はそう言い、窓を開けて夜の闇の中に消えていきました。「待って!」という私の乾いた声だけが、夜の帳に飲み込まれていきました。
翌朝、私は普通にベットに横たわっていました。あれは夢だったのか、夢であってほしい、と思っていましたが、床に白い糸がスーッと一本だけ、窓の方に向かって伸びていました。鏡の中にはいつもの美しいままの私。
私はメイクをする気にもなれなくなった。私はどうしてあんなに嫌われているんだろう? まあ、メイクなんかしなくても十分綺麗だから気にしなくてもよい、と、気を取り直して出勤しました。いつものように周囲の目は冷たい。
やっと休憩時間になって、社員食堂にランチに行くと、後ろから私の肩をたたく人がいます。ふり向くと元の私だったんです。「今日から私、総務課の藤本になりました。よろしくね」と平然と言う元私。「藤本さんはどうなるのよ!」つい大きな声で私は聞いてしまった。
「彼女の仮面なんてみんなほしくないわ。でも、彼女ほどの人格者はいない。彼女の優しさって美徳だよね。」と元私。
私も、藤本さんが大好き。本当に心の綺麗な人だ。帰宅して私は、家族に一連の出来事を聞いてもらった。「あなた小説家にでもなったら」と家族。誰も相手にしてくれなかった。
翌朝、鏡をみると、再び私の顔が変わっていた。
人は全てが整っていると嫉妬の対象になるのです。どこか恵まれていないところがあるから、村八分を免れるという皮肉な性質を持つのが人間なのです。ドジな一面をもっているほうが可愛いかもしれませんね。
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